リモート環境下での1on1を成功させる具体的な方法
はじめに
リモートワークが普及する中で、チームリーダーやマネージャーの皆様は、メンバーとのコミュニケーションや状況把握に新たな難しさを感じていることと存じます。特に、メンバー一人ひとりの業務状況、心理状態、キャリアに関する考えなどを深く理解するための「1on1ミーティング」は、対面時とは異なる工夫が求められます。
オンライン環境では、非言語的な情報のやり取りが減少し、雑談のような偶発的なコミュニケーションも生まれにくいため、意図的に質の高い対話の場を設けることが不可欠です。この記事では、リモートワーク環境下で1on1ミーティングを成功させ、メンバーのエンゲージメント向上や成長支援に繋げるための具体的な方法と実践的なヒントをご紹介します。
なぜリモートワークでこそ1on1が重要なのか
リモートワークにおける1on1は、単なる業務報告の場ではありません。チームとして成果を出す上で、以下のような重要な役割を果たします。
- メンバーの状況把握: オフィスでの様子が見えにくいリモート環境だからこそ、定期的な1on1を通じて、業務の進捗だけでなく、仕事への向き合い方、抱えている課題、体調やメンタルといった個人の状況を把握できます。
- 信頼関係の構築・維持: 継続的な対話は、リーダーとメンバー間の信頼関係を深めます。特にオンラインでは、意識的に対話の機会を設けないと関係性が希薄になりがちです。
- エンゲージメントの向上: 自分の話を聞いてもらえる機会があることは、メンバーの安心感や組織への貢献意欲を高めます。個人の貢献が適切に評価されていると感じるためにも重要です。
- 成長支援とフィードバック: メンバーのキャリア目標や成長課題について話し合い、具体的なフィードバックを行う場となります。リモート環境でのフィードバックは、対面よりも慎重な配慮が必要です。
- 非同期コミュニケーションの補完: Slackやメールなどの非同期コミュニケーションだけでは伝えきれないニュアンスや、話し合った方が早い内容について、リアルタイムで深く掘り下げることが可能になります。
リモート1on1の具体的な進め方
リモート環境での1on1を実りあるものにするためには、準備から実施、実施後まで計画的に進めることが重要です。
1. 準備段階
- 目的の再確認: そのメンバーとの1on1で、リーダーとして何を知りたいか、メンバーにどうなってほしいかといった目的を明確にしましょう。また、メンバー自身が1on1に何を求めているかを知ることも大切です。
- アジェンダの共有と調整: 一方的なアジェンダではなく、事前にメンバーにも話したいことを考えてもらい、共有シートなどでアジェンダを共同で作成・調整します。これにより、メンバーは事前に何を話すか整理でき、主体的に参加できます。テンプレートを用意しておくとスムーズです。
- 時間とツールの準備: 集中できる静かな環境を選び、使用するビデオ会議ツール（Zoom, Meet, Teamsなど）が問題なく動作することを確認します。可能であれば、カメラをオンにすることを推奨します。
- 心理的安全性の確保: 1on1は評価のための面談ではなく、メンバーの成長や課題解決をサポートするための時間であることを明確に伝え、安心できる雰囲気を作り出すことを意識します。
2. 実施中
- アイスブレイクの工夫: 本題に入る前に、短い時間でも雑談を挟むことで緊張をほぐし、話しやすい雰囲気を作ります。例えば、最近読んだ本、週末の出来事、使っているガジェットなど、仕事以外の話題も有効です。
- 効果的な問いかけ: はい/いいえで答えられる質問だけでなく、「〜について、どう思いますか？」「〜について、もう少し詳しく教えてください」「なぜそのように感じましたか？」といったオープンクエスチョンを活用し、メンバーが深く思考し、言語化するのを促します。
- 傾聴の姿勢: メンバーの話を遮らず、最後まで聞くことに集中します。オンラインでも、相槌を打つ、頷く、相手の言葉を繰り返すといった反応を意識的に行うことで、聞いていることを示せます。画面共有を活用している場合は、相手の表情が見えにくいこともあるため、声のトーンや相槌がより重要になります。
- メンバー主体の進行を促す: アジェンダに沿って、まずはメンバーから話してもらう時間を多く設けます。「今日は何か話したいことや相談したいことはありますか？」といった問いかけから始めましょう。
- 具体的なフィードバック: ポジティブな点も改善点も、具体的な事実や行動に基づいてフィードバックします。「〜のプロジェクトでのあなたの〇〇という行動は、□□という結果に繋がった点が素晴らしかったですね」「先日依頼した△△のタスクで、××の部分を次のように変えてみると、よりスムーズに進むかもしれません」のように、抽象的な評価ではなく具体例を挙げます。
3. 実施後
- 議事録とアクションアイテムの共有: 話し合った内容の要点、特に合意したアクションアイテムや次回の1on1で話したいことなどを簡単な議事録としてまとめ、メンバーと共有します。これにより、認識のずれを防ぎ、次への行動を促します。
- フォローアップ: 合意したアクションアイテムについて、期日を決めて進捗を確認する機会を設けます。また、1on1での会話を通じて得られた気づきや、メンバーの状況変化に注意を払い、必要に応じてサポートを行います。
リモート1on1でよくある課題とその対策
リモート環境ならではの課題とその対策についても触れておきます。
- 課題：会話が弾まない、沈黙が多くなる
- 対策： 事前にアジェンダを共有し、メンバーに考えてもらう時間を設けます。話したいことリストやフレームワーク（後述）を準備しておくと、話題に困りにくくなります。また、敢えて短い時間（15分など）で回数を増やすことで、気軽に話せる雰囲気を作ることも有効です。
- 課題：メンバーの本音が引き出せない
- 対策： 繰り返しになりますが、1on1が評価の場ではなく、安心して話せる場であることを明確に伝えることが最も重要です。リーダー自身のオープンな姿勢（例えば、自分自身の課題や悩みを共有するなど）も、メンバーが本音を話しやすくなることにつながります。また、心理的に安全な環境をチーム全体で醸成する日頃の取り組みも効果を発揮します。
- 課題：時間が一方的になり、リーダーばかり話してしまう
- 対策： アジェンダの中で「〇〇さんから話してもらう時間（15分）」のように、メンバーが話す時間を意識的に確保します。タイマーを使うのも良いでしょう。また、問いかけの後に十分な「待つ時間」を設けることも大切です。
成功事例と実践的なTips
リモート環境での1on1をさらに効果的にするための具体的なTipsをいくつかご紹介します。
- 「最近気になっていること」リスト: 1on1の前に、メンバーに業務内外で「最近気になっていること」や「モヤモヤしていること」を箇条書きで挙げてもらうように促します。これがアジェンダの出発点となり、普段の業務報告では出てこない本音や課題が見えてくることがあります。
- フレームワークの活用: 「Keep（続けていること）、Problem（課題）、Try（次に試したいこと）」や「Good（良かったこと）、More（もっとこうしたいこと）、Learned（学んだこと）」などのフレームワークを事前に共有し、それに沿って考えてきてもらうことで、対話がスムーズに進みやすくなります。
- 短時間・高頻度: 従来の30分〜1時間といった形式にこだわらず、15分〜20分程度の短い時間で、週に1回など頻度を高く設定するのも効果的です。気軽に話せるようになり、状況の変化にも迅速に対応できます。
- 「あえて」の雑談時間: 1on1の冒頭や終わりに、意図的に5分程度、完全に仕事と関係ない雑談をする時間を設けます。これにより、人間的な繋がりを深め、信頼関係構築に役立ちます。
- ツールの活用: 共有ドキュメント（Google Docs, Confluenceなど）でアジェンダや議事録を管理したり、専用の1on1ツール（一部のHRISやチームマネジメントツールに搭載されている機能）を活用したりすることで、効率的に管理・運用できます。
まとめ
リモートワーク環境における1on1ミーティングは、メンバーの状況を深く理解し、信頼関係を構築し、成長を支援するための非常に重要な機会です。対面時とは異なる難しさがある一方で、ツールを効果的に活用し、意図的にコミュニケーションの質を高める工夫をすることで、より実りある対話が可能になります。
今回ご紹介した具体的な準備、実施、実施後の進め方や、よくある課題への対策、そして実践的なTipsを参考に、ぜひご自身のチームでの1on1を改善してみてください。継続的に実践し、メンバーからのフィードバックも取り入れながら、チームにとって最適な1on1の形を見つけていくことが、リモートチームの力強い成長へと繋がるでしょう。
今日から、あなたの次の1on1で一つでも新しい試みを加えてみることをお勧めいたします。